2012年08月05日
東横桃子と加治木ゆみシナリオに関する一考察
小林立さんのシナリオ構築の見事さについて触れていくシリーズの二回目。
今回は、東横桃子と加治木ゆみの出会いとその台詞の深さについて。
■ ステルスモモの特性
まずは基本の確認から。
モモの特徴はその「消える」ステルス能力。
大きく音を立てるまでは、気配どころか声すら聞こえず、その姿も見落としてしまう。
その誰にも見つからない特性を生かして、長野決勝副将戦でもっとも点数を稼いだ。
■ かじゅとモモの出会い
加治木ゆみ(かじゅ)とモモが出会うシーン。
居るはずだけど姿を見つけられない教室で、恥や外聞を顧みずかじゅは「叫ぶ」。
「私は君が欲しい!!」
これが、モモとかじゅにおける起点。
なおかじゅはオンライン上で見たモモの打ち筋とチャットでのその性格に惚れたのであり、姿を消す能力に惚れたのではない。
モモにしてみれば、本当の私を見てくれたという思いがある。(はず)
この告白にも近いかじゅの叫びを効いたモモの反応はというと……。
「いないこと」を良しとしていけれど、全力で探し求めてくれたかじゅにときめいている。
これらを踏まえて、長野決勝後の二人のシーンを読むと、その台詞がすごく深いことがわかる。
■ 決勝戦後の二人の台詞
団体戦決勝で勝てなかったことがくやしかったのだろう。
「消え入りたい気分だよ」とかじゅが言う。
「消えてもいいっすよ」とモモが答える。
勿論、「消える」はステルスモモのキーワード。
これがどう結ばれるのかというと、次の素晴らしすぎるモモの台詞に。
「今度は私が大きな声で 先輩を探しまわって見せますから! 大声で世界中練り歩くっす!!」
さて……。
こう流れでまとめると気付いた人も多いと思うけれど、「消え入りたい気分」のかじゅに対して、「大声で叫んで探し求める」は、実は「かじゅとモモの最初の出会い」をなぞっている。(消えて見つからないモモを、教室中に聞こえる声でさけんだかじゅとの対比)
「いないはずの私」を探し求めてくれたことがそれほど嬉しかったということあり、それを全力でかじゅに返したいということが暗に表現されている。
しかももう一つ深い意味が隠れている。
大声で叫ぶというのは、先にあげたように、モモが能力を自発的に失う時のキーワード。
つまり、東横桃子はこう言っているのだ。
「今まで培ってきた力すべてを失ってもかまいません。それでも先輩と一緒にいたいんです」と。
以上が「今度は私が大きな声で 先輩を探しまわって見せますから! 大声で世界中練り歩くっす」という台詞に込められた感動的な深い意図。(……だと思う)
最初の出会いに導かれるラスト──。
しかも、ばらまいてきたキーワードを拾い上げ、モモの全力での告白になっている。
ホント上手に作ってると言わざるをえない。
■ 台詞のリズムに関して
オマケ。
ここの台詞、音のリズムだけで考えるなら、「今度は私が先輩を探しまわってみせますから!」の方が単純に読みやすい。
にもかかわらず「大きな声で」という言葉を入れたり、すぐにまた次の台詞で、「大声で世界中練り歩くっす」と、「大声」という単語をかぶせるように出しているということは、「大声」に重要なメッセージが込められているからだと推測できる。(先に分析してきたように、大声は重要なキーワード)
こういう分析手法は他の作家にも使える時があって、台詞のリズムが上手な作者にもかかわらず、なぜかそれが崩れる箇所があったとしたら、そこに重要な意図やこだわるべきキーワードがある場合がある。(リズムよりも、意味や意図、メッセージを優先して台詞を作っているんだから、そりゃあ台詞読みにくくなるわなって話)
さて、このかじゅとモモの組み合わせ、咲-Saki- 7 初回限定版(DVD)ではなんと抱き枕カバーになっている。しかもふたりとも裸で。
……だからかは知らんが、この商品、未だにプレミアついてて高い。
DMM:すけるっす!(ステルスモモのエロ同人)
確かに少し語呂が悪いなとは思ってましたが、こんな意味があったんですね!
元々このシーンは好きでしたが、能力を失っても〜という意味があることを知ってもっと好きになりました!!!
「その口を塞ぐ」?的な発言がめっちゃ好きです!
大声を上げるというキーワードを意識的に使っているようなので、おそらくはこの説で当たっていると推測しています。教室での出会いによる対比であると同時に、自分の全てを捨ててもあなたのもとにかけつけたいという思いが出てて。
素敵なシーンだと思います。
咲さんかわいいさま
口をふさぐと言うのも意味深ですよね〜。
叫ばなくてもいいというのと同時に、キスをしちゃうぞ的なニュアンスも含まれていて。
私も大好きな台詞です。
他の漫画でも探せばこういうのが出てきそう。